超弦理論の非摂動的形式化

一般相対性理論と量子力学をひとつの理論的な枠組みの中で矛盾なく記述することは、現在の理論物理学における最も重要な課題のひとつです。超弦理論はこの難問に対する重要な手がかりを与えると期待されていますが、摂動的にしか定義されていない未完成な理論であり、その非摂動的な定式化に向けての研究を行っています。特に近年は弦の場の理論を集中的に研究しています。

弦理論の基本的な自由度は何か?

弦理論は、素励起が粒子的ではなく、1次元的に広がった弦のようにふるまうと考える理論です。例えば次のファインマン図は、ひとつの弦が2つに分裂する過程を表わしています。

場の量子論には非摂動的な定義があり、摂動論で使うファインマン図の規則はその定義から導かれるものですが、弦理論ではこのファインマン図の規則が与えられているだけで、それが何から導かれるのかは分かっていません。これが弦理論が摂動的にしか定義されていないという意味です。すなわち、弦理論の基本的な自由度は何なのかが分かっていないのです。

弦の場の理論

弦理論の非摂動的な定式化に向けてのひとつの自然なアプローチとして、弦理論の摂動論を再現するような弦の場の作用を構成するということが考えられ、そのような理論は弦の場の理論と呼ばれています。弦の異なった振動状態は無限種類の異なった粒子を表わし、弦の場の理論の運動方程式は無限種類の無限個の場が無限回の微分を含む非局所的な相互作用をする非線形な連立方程式になります。とても手に負えないような非常に複雑な系ですが、私の友人でもあるSchnabl が2005年に運動方程式の解析解の構成に成功しました。Wittenがこの運動方程式を書き下したのが1986年ですから、約20年を経て初めて構成された解析解です。

この解析解の構成の際に重要な役割を果たしたのは、共形場の理論を用いた弦の場の理論の記述です。上の図は、先ほどのファインマン図を共形場の理論の対称性である等角写像を用いて座標変換したものです。左右の半直線は同一視されています。

弦の場の理論における解析的手法の発展

この座標系では、赤、青、緑の線で表わした弦の運動がそれぞれ短冊状の領域で表わされ、複雑な相互作用が短冊を張り合わせたりすることで視覚的に理解できます。これまでこのような解析的手法を開発・整備し、Schnablによる解析解の構成以来、急速に進展している弦の場の理論の研究に貢献してきました。2007年には米国マサチューセッツ工科大学 (MIT) や米国ニューヨーク州立大学のグループとの共同研究で、新たな解析解の構成に成功しました。さらにそれまでは簡単化されたボゾニックな弦理論でしか構成されていなかった解析解の超弦理論への拡張に、Erlerというやはり友人でもある若手研究者と同時期に独立に世界で最初に成功しました。現在、このような世界最先端のテクノロジーを使って、世界各国の共同研究者と議論しながら弦の場の理論の研究を進めています。そのほか過去には行列模型や非可換幾何学に基づくゲージ理論などの研究をしており、弦理論の非摂動的定式化に関して幅広い興味を持っています。